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山口家庭裁判所 昭和53年(少)448号 決定 1978年7月10日

少年 N・H(昭三八・六・一七生)

主文

一  少年を初等少年院に送致する。

二  山口保護観察所長は、少年の家庭環境調整につき、特につぎの措置を行うこと。

1  少年の実父母、祖母に対し、本件を契機として、従来までの溺愛的な接し方の問題点を自覚し、今後の少年の教育指導等につき十分話合う機会を持つよう指導すること。

2  少年の実父に対し、飲酒を慎しみ、少年との意思疎通を図るよう指導すること。

理由

(非行およびぐ犯事実)

少年は

1  窃盗等の非行のため中学一年時の昭和五一年八月三一日児童相談所を通して教護院△△学校に入所、昭和五二年四月九日同校を退所し同月二八日○○中学校に復学したが、同年六月ごろから保護者、教師の指導にも従わず怠学が始まり、服装も乱れ、校則を守らず、図書館等にて同級生や下級生から金銭を借りうけ、同年一二月にはレストランで深夜アルバイトをし、年上の当庁に非行前歴のある高校生らと交際し、喫煙、飲酒し、さらに上記高校生らと九州方面へ家出を計画し、実行直後発見補導されるなど、少年には、保護者の正当な監督に服しない性癖および自己の徳性を害する行為をする性癖があり、犯罪性のある人と交際し、少年の性格・環境に照して将来罪を犯す虞れがあり(昭和五三年少第六六一号事件)、

2  昭和五三年四月一八日午前〇時ごろ、山口県徳山市○○××番地○○○○○株式会社○○営業所構内において、配送専門貨物自動車に積載してあつた同営業所長A管理のコカコーラ(三〇〇ミリリットル瓶入り)二四本ケース入り一箱時価一四四〇円相当を窃取し(同第四四八号事件)

たものである。

(非行・ぐ犯事実の適条)

1の事実につき少年法三条一項三号イ、ハ、ニ。

2の事実につき刑法二三五条。

(処遇)

1  少年は、幼少のころから、祖父母(実父の養親)や両親からの盲愛の中で育ち、小学校二年のころから列車妨害、自転車盗、学用品の万引、家の金の持出しが始まり、小学校卒業まで同種の問題行動が続き、○○中学校入学後、怠学、窃盗、夜間外出、火遊び等があつたため一学年の昭和五一年七月児童相談所へ通告され、同年八月三一日教護院△△学校へ入所したものである。その後、同校では無断外出もみられたが、少年は何とか落着いて指導を受けていたものの、祖母、両親からの思慮に欠ける面会、長電話、外への連れ出し等で指導が混乱する事態もあり、ついに、昭和五二年三月末少年が春休みで帰宅した際、少年の保護者は△△学校側の方針に逆らい少年を強引に同校から連れ戻すという結果となり、ようやく同年四月末少年は○○中学校へ復学することとなつた。ところが、その後の六月ごろから怠学が始まり、上記ぐ犯事実記載のとおり、頭を角刈りにし、服装も異常に長く派手で、図書館などで生徒から金銭を強引に借りて返さないなどの行為もみられ、深夜二時までもレストランでアルバイトをしたり、年上の高校生や高校退学者ら(当庁に非行前歴のある者や女性も含む)と主に自宅で交遊し、少年の自室に内側から鍵をかけタバコやウイスキーをのんだり、高校生らの乗つてきた単車に乗せてもらつてドライブに出かけたり、同人らとともに九州への家出を実行したものの途中で保護されたこともあり、少年は、この間中学二年時の学校への出席日数が授業日数二四二日のところ七〇日しか出席しておらず、(因みに中学三年の四月二〇日までは授業日数一一日のところ六日出席)また出席はしてもすぐに勝手に帰つてしまう有様で、少年には学習意欲もなく、その生活は長期にわたつて相当深く崩れているとみられる。

なお、少年には表面に現われた非行は数は少ないが、家族(特に母)に対する暴行、家財のもち出し等はみられ、少年の上記行為からは非行につながるおそれは極めて大きいものと考えられる。

2  他方、少年の実父は酒におぼれ、アルコール中毒のため二度にわたり精神病院に入院したこともあり、飲酒すると荒れ、△△学校から少年を無理に連れ出したことにも顕著なように、子供に一貫した教育を施すことは困難であり、また、実母は無知で、指導力なく、少年からは馬鹿にされ、今なお家庭で実権を握つているかのような七七歳の祖母や実父(夫)果ては少年の言いなりであり、また幼少時から少年を溺愛し続けた高齢の祖母には少年の指導を期待するのは全く不可能である。

3  以上の事情から、まず、少年が最も希望し、かつ保護者側の希望でもある(保護者としての固有の考えはなく、少年の希望するところが保護者の希望でもあるようである)自宅へ帰り○○中学校へ通学することは、上記のとおりの従来の経過からみてもさらに今回の件での少年の反省および保護者の少年に対する考え方が充分反省しえていない現状からみても現在の少年および保護者に直ちに期待をかけるのは困難であり、無理と考えざるをえない。

そこで、少年の年齢とくに義務教育未終了の点を考慮すると、教護院へ送致し、今後の矯正を期待したいところであるが、具体的に考えられる△△学校については、同校の方としては保護者の態度如何により受容れも可能ということで、度重なる審判期日毎の裁判所からの説得にも拘らず、保護者の考え方としては、少年が自宅へ帰りたがつているから親としても家庭へ返して欲しいというばかりであつた。そして、家庭へ返すのは困難であることを前提に今後の方針を検討するよう第一回審判期日で裁判所が説明しているにも拘らず、少年が少年院がよいという以上、親としては是非教護院の方をとは考えられないという有様であつて、ついに、保護者の協力も得られず、この状態では、△△学校から勝手に家庭に帰つた前回の失敗をくりかえすことにもなりかねず、△△学校の線は消さざるをえないものである。また県外の教護院へ収容ということは、事実上困難ということであり、さらに、国立教護院は、地理的に遠方という面もさることながら、強制措置をとりうる教護院として男子で全国に一か所あるもので、全国からその為に送致される少数の特別問題ある少年とはとても本少年の場合考えられない。

4  そこで、ひるがえつて考えるに、少年には、現在表面上現われた非行は軽微であるが、ぐ犯事実に掲記した如くぐ犯性さらに要保護性は極めて大きく、しかも本少年の問題性はかなり長期にわたつて継続してきている点を考慮すると、この際、少年を初等少年院に送致し、義務教育としての基礎学力および集団生活を通じての基本的生活習慣を身につけさせるのを相当と考えるものである。

(少年院に対する処遇勧告)

なお、本少年は非行性の点において必ずしも重いものではない点、また、来春には中学卒業の予定であり将来の進路を確定しなければならない点を考慮し、初等少年院において矯正効果があがつた場合には、昭和五四年三月末に進学、就職等の進路決定の希望がかなえられるよう、予め受験その他の機会が与えられ、かつ、仮退院時期も進路決定に合わせられるよう配慮されることを勧告するものである。

(環境調整の理由)

上述したように、本少年に対する問題点は少年自身の外に保護者側ことに祖母、実父母の溺愛や放任、一貫した教育観の欠如、父親の飲酒による家庭内暴力等にも見出されるものであり、少年の今後の更生は保護者の考え方、態度にも大きく左右されるものと考えられる。しかも、前回教護院措置の機会が生かされなかつた失敗を繰り返さないようにするには、保護者側の問題点の改善を保護者が少年に面会に出かける以前から(面会時激励というより専ら同情的な態度に出ることが予想される)できるだけ早急に、しかも時間をかけて行なう必要があり、特に主文記載の環境調整の措置の必要があるものと思料する。

(主文の適条)

一項につき、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項後段、少年院法二条二項。

二項につき、少年法二四条二項。

(理由中の処遇勧告につき、少年審判規則三八条)

(裁判官 杉本孝子)

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